課長のお目玉 作・中野 守(中野劇団)  登場人物   課長   主任   香坂   松下      公園らしいが、暗闇の中で演じているため確かではない。地面に横たわる課長。      気を失っている。その間近に主任、OL香坂、社員の松下。      三人とも課長の部下である。 松下  課長、聞こえますか? 課長? 主任  (携帯)もしもし、救急車お願いします。怪我人です。はい。 課長  ううう。 香坂  課長、聞こえますか?      課長、意識を取り戻す。 課長  んん? 痛! 香坂  (主任に)課長、意識戻りました。 主任  (携帯)花見してたんですけど、ドッジボールしてる酔っぱらいがいまして、はい。 課長  香坂君、何があったんだ。突然頭がガンって。 主任  (携帯)それでボールが後頭部に当たって。 課長  おい。何も見えないぞ。どうなってるんだ。 香坂  課長、大丈夫ですからね。 課長  なあ、何で真っ暗なんだ? 主任  (携帯)眼球が飛び出してるんです。      間。 課長  え? 主任  (携帯)だから両方の目が飛び出してるんです。今、完全に出ちゃってる状態です、はい。 課長  …儂? 主任  (携帯)今から五分くらい前です。今意識戻りました。 課長  儂の目が? 主任  (携帯)神経みたいなのが繋がってる状態で、今、切れないように一人が目の前で持     ち上げてます。 松下  主任。目の前って。目なのに。 課長  松下君、何を言ってるんだ。 香坂  課長、動かないで。神経が。 主任  (携帯)はい。じゃあ、よろしくお願いします。 課長  嘘だろ? 香坂  触っちゃ駄目! 課長  え?      主任、電話を切る。 課長  どうしてこんなことに。 主任  香坂君。そんな、それ、ぐっと握らない方が。 課長  それって、儂の目か? 香坂君? 主任  その白いトコ持った方が。それ、指が黒目のトコに。 香坂  え? ああ。 主任  俺が持とう。 三人  ああああ!      手が滑るが、主任、キャッチ。 課長  何? 何? 何? 主任  おおおおおお。落としそうになったよ? 課長  は? 香坂  あんまり素手で持たない方が。何か容れ物ないですか? 主任  松下君、足下にタッパーあるだろ。それ使って。中身捨てちゃっていいから。 松下  え? 何処ですか。 主任  だから自分の足下にあるだろ! 何処に目をつけてんだ。 松下  え? 主任  違います課長! い、今のはそういう意味じゃなくて。 課長  そんな気、逆に使うなよ。 松下  あ、これですね。 課長  それ、何? 魚の匂いがするんだけど。 香坂  じゃあその鯖を、こっちに。 松下  はい。じゃ、目を乗せて下さい。 香坂  みぶびひはひて。 課長  何で鯖食ってんの? 香坂  (飲み込んで)水に浸してた方がよくないですか? 乾くと目にあまり…。 主任  香坂君、あそこに水道が。 香坂  何処? 主任  ほら今、浮浪者が口つけて水飲んでる。 課長  待って待って! 松下  水道の水はまずいんじゃ。 主任  でも他にないし。 香坂  でも、人間の体液に近い方が。 主任  そんなの、何処にも。 松下  主任。僕、さっき買ったポカリが。 主任  よし。 課長  待て待て! 松下君。ポカリて。 香坂  課長、そんなこと言いながら目から鱗が。 課長  鯖のだろ。先に容れ物洗えよ。 香坂  取ります。 課長  もういいから触らないで。 主任  病院着いたら、ちゃんとした液体に浸してもらいますからね。 課長  ああ。いや、治してもらうよ。 香坂  すいません、コンタクトでした。      突如、カラスが接近。(布をばたつかせる) 課長  なあああああ! 何今の何今の何今の? 松下  カラスです。カラスです。 課長  カラス? 目は? 大丈夫? 何でカラスが? 主任  臭いで寄って来てるみたいだな。 課長  ああ、血の臭い? 松下  死の臭い?(課長と同時に) 課長  松下君、今、死って? 香坂  主任、救急車すぐ来るんですか? 課長  今、死って言ったよね。 主任  いや、ちょっとかかると思う。場所言わずに切ったし。 課長  言えよ! 着かないよ。 香坂  主任、携帯貸して下さい。 主任  え? 待って。手が…。はい。携帯。 香坂  ええ? 何これ、ボタンが0と1しかない。 主任  二進フォンだ。一一九だから110111…、違う1110110、あれ? 松下  1100…あれ? 香坂  ああもう、私の使います。 課長  あるなら先に出せよ! ちょっとみんな落ち着いて!      写メール。 課長  何、今の写メールみたいな音。 主任  香坂君! 香坂  課長だって後で今の顔見たいと思うんです。 主任  目が治るとは限らないだろ! 不謹慎だよ! 課長  君だよ主任! てか、電話しろよ! 松下  もうちょっと、課長をそっちに移動しませんか。さっきから子供が下敷きに。 課長  言えよ! 主任  課長、動かしますよ。 主・松  せえの! 香坂  あ、もしもし。さっきの目の件ですけど。 課長  目の件って。ちょっと何で二人とも足持つの! 引きずってる! 頭引きずってる! 主・松 ぐ…。 香坂  場所言ってなくて。はい。本町のわんぱく公園です。はい。…はい。じゃあお願いしま     す。 主任  降ろして降ろして! 香坂  課長、もうすぐ救急車来ますから、それまで頑張って下さいねえ。      着メロ、「おい、鬼太郎!」 主・松 わああ!      着メロ、「おい、鬼太郎!」 香坂  違います携帯です。私の携帯です。      着メロ、「おい、キダタロー。」 課長  今、最後違う人の名前が。 香坂  ええ? もう何? こんな時に(通話)もしもし、あ、ゴメン。今、目が離せないか     ら。 課長  「手」だろ。 香坂  後でかけ直す。主任もいるし。ホント今電話無理だから! 課長  じゃあ取るなよ! 松下  (ヒソ)主任。さっきより萎んでません? 主任  (ヒソ)ばか。聞こえるだろ。 課長  聞こえてるよ! 香坂  ちょっとハンカチ濡らして来ます。 主任  あ、香坂君、待って!      香坂、スカートが破けて脱げる。 香坂  キャ! 課長  どうした? 主任  課長が香坂君のワンピース握ってたんです。引っ張るから、脱げたんです。 課長  そんなワンピース? 香坂  ああもう、いいです。 主任  いいですって、香坂君。パンツは! 香坂  え? あ、いっけね。 主任  いっけねか? パンツ穿き忘れてて、いっけねか? 課長  こ、こ、香坂君? 香坂  ああ、いいですって。課長には見えてないんですよね。 課長  え? 儂はそんなにあれか。      写メールの音。 香坂  何撮ってるんですか! 主任  (シャッターの)わ、音鳴っちゃった。 課長  しゅ主任、君って奴は。今がどういう状況か。第一、君の手は、儂の目を持ってるん     じゃなかったのか。 松下  このハンカチ使って下さい。最初から濡れてる奴ですから。 課長  何で最初から濡れてんの? 主任  じゃあそれ、目の部分にそっと当てて。 松下  はい。オェレロレロレ。      地面に嘔吐物が弾ける。 主任  松下君! 松下  だって、目の中が見えちゃって。 香坂  課長、吉永さんが、最近主任にセクハラされてて困ってるって。 課長  何で今言うの! てか、先に服着なさいよ。…あれ? 意識が…。 香坂  課長? 課長  あれ? 駄目だ…。 香坂  課長? 課長?      明るくなる。      課長、目を覚ます。花見会場。      ほろ酔いの香坂、桜を写メで撮影している。      松下、後ろの木に捕まり嘔吐後の唾を吐いている。 香坂  課長、風邪引きますよ。 課長  え? 香坂君? 香坂  ? 課長  …夢? 香坂  寝言言ってましたよ。桜、咲いて良かったですね。 課長  ああ…。 松下  おええええ。 香坂  松下君、大丈夫? …これ、鯖の味噌煮いけますね。 課長  …あれ? 主任は? 香坂  さっき、向こうで遊んでましたけど。 課長  あそう。…めちゃくちゃな夢だったな…。 香坂  課長、自分で頭地面に擦りつけながら、「痛い痛い」って叫んでましたけど。 課長  ああ…。      千鳥足の主任、ドッジボールを持って課長の背後に現れる。終わり。